「写真を撮りにいらっしゃったのですか。」その女は、私が肩から提げたカメラを見て、カウンターに置いた弁当や飲み物を手に取りながら言った。
「スキーと両方で来たんです。」瓜実顔の日本風な、なんとなく懐かしさを感じさせるような顔つきの女が、淑やかにカウンターの前に立って居た。
「いいですわね。」うらやましそうな、女はそんな風に私を見ながら言った。どこの都会から来たのだろう、そんな風に自由にあっちこっちへ行けたら良いのに。
女の目がそのように語っているようであった。
30歳前後の,いやもっと若いだろうか。長野のずっと奥のスキー場の近くのコンビニのカウンターで、いつもこんな風な目で他所から来た客と相対して居るのだろうか。
まるで、どこかへ直ぐ一緒に行きたそうに。
外の明るい日差しと無縁の店舗の奥のカウンターで、わずかなその光が魅力的な顔に陰影をつけまっすぐに黒い瞳を向けている。(私を此処から連れ出してくださいな。)
「お弁当は熱いから気を付けてくださいね。」「飲み物とは別にしときましょう。」
要領よくビニール袋に入れられた品物をサブザックに詰め、じっと注がれた瞳を背に店を出た。
3月の強い日差しに照り映えた雪に春を感じながら、雪国もこれから今までスキー客が往来していた道を、地元の人々が楽しげに行きかうのであろう様を想像した。
降り積もった雪の上で、白樺の木々が陽光に光っていた。
(又おいで。)そう、又来たいなあの人に会いに、
今度来る時は居るだろうか。やがて来る雪解けとともに、この町を出て行ってしまうのだろうか。
(又おいで。)輝く雪や白樺の木々、赤い屋根のペンションが私に呼びかける。
’02年3月暖かい午後の日
